シェフのお客様への思い、考え、そして料理へ
この一週間のうちにガラリと季節が変わったシドニー、でもまだまだ変わりきれないから気圧の変化がやや激しいです。その辺りは春とそっくり。
ただ・・春は花粉や日差しが強まるので暖められた地面の対流の影響で、冬に枯れた植物が十分に繁殖してないためにチリが舞い上がって空気中が埃っぽくなってしまうのに対して、秋は秋晴れと言う言葉がある様に空気が澄んでいます。。
そ~んな清々しく気分良く仕事中、副料理長がじーっと私の顔を見て一言。
「今までに真剣に物事を考えたことってある?」はっっ!?いきなりどーした?
「ええ。いつでもかなり真剣です」「何か軽いんよなぁ。東のもんは。」
ほっとけ、西のもんよ。。
よく母親に言われた言葉その一「もっとマジメにしなさい」未だに理解出来ません。熱出してしんどい時もなかなか信じてもらえず、測ったら39℃。「もっと真剣に辛そうにしなさい」意味わからん。
そして極め付けが、たまたま行き着いたサイトで行動心理ゲームみたいなのがあってやってみた結果→あなたは物事を直感で感じて行動する気楽な性格・・・
ブチッ‼︎強制シャットダウン。お前に私の何がわかるんだ??
では、気持ちを切り替えて…まず初めに次の写真を見て欲しい。
盛り付けがかわいくないですか?小さいガーニッシュ(付け合せ)がちょんちょん乗っていて思わずパシャッ!
簡単に説明すると、蛸のコンフィです。低温オイルでじーくり火入れしたもので、蛸の脅威的な弾力性がサクッと噛み切れ甘さが際立つ。付け合わせもチック豆を裏ごししてクリーミィにしたものと、チョリソーがピリッときいて、トマトの酸味がさわやかに…
副・料理長は試食してOK!・・でも社長とマネージャーより却下。
原因は、この皿の主役がわからない。バラバラの食材がただ一つの皿に盛られた感があるんだと。言われてみれば確かに・・
主役の蛸もガーニッシュもあちこちに置かれているから、当然食べる時も一つずつ口に入れている。
そこで今日はマネージャーの言葉が勉強になったのでここに書きとめておこうと思う。(あくまでもこれは私の働いているレストランの上司の思考です)
構成
お客さんは中にはレストラン関係者の人もいるけど、基本素人。お皿に盛られた形のまま、口に入れるということを忘れてはならないという。
主役をどの様にして食べて欲しいのかを構成していくんだけど、この始めの構成部分でなんとな~く考えてなんとな~く作ると結構仕上がりまでに時間がかかってしまう。
なんで、始めが肝心。
大事なガーニッシュ
主役を決めたら、その周りのガーニッシュを選ぶ。これは基本フレッシュ感満載のその時期のものを中心に、その上でテーマに沿ったものを選ぶと間違いないらしい。
次に調理方法。ガーニッシュをどんな形で食べてもらいたいか、そしてその皿の中でどんな役割をするのか、甘味か酸味か辛味なのか。。。
例えば、同じ酸味の役目をするのであっても箸休め的なものと、食べているうちに最後にさっぱり感を与える役目では盛り付けも変わってきてしまう。
そしてこの時点でどの味覚に優先順位をつけていくか、これはコントロールすることが出来るんです。(ちょっと内容がかなりディープになってしまうのでまた改めて書きます)
で、始めに盛った蛸の盛り付けをガーニッシュも変えずに今度は食べて欲しい形を意識して社長の所へ・・パス!!
キッチンスタッフ皆で大喜びでHigh touch!!
マネージャーが申す
そこでマネージャーが一言。もしこのガーニッシュに使われているトマトだかチック豆だかが特別な物であったら、前の盛り付けで問題ないんだと思う。
ただ見た目だけでその素材を持ってくるのなら、その料理のレベルを下げるだけなので止めたほうがいい。
今、ビーフたたきの新メニューを考え中。今回の試食会も勉強になりました。
ちなみに付け加えると、創造力って年齢を重ねる毎に豊かになるって知ってましたか?これは脳科学でもしっかりと証明されています。
個人差はあるものの、それまでの経験がそのまま創造力へ反映されるそうです。だからシェフって比較的息の長い職業であり、いろいろと経験するほど豊かなディッシュが生まれるんです。
誰もが成長したいと願う
試食会のコメントってものすっごく勉強になります。料理長は去年の忘年会で「俺ももっと成長したい。でもやっぱり立場上、誰も何も言ってくれないのが料理長という立場の欠点だと思う。だから来年は皆にどんどんぶつかって来てほしい。」と言っていました。
仕事というのは時間が経てば経つほど慣れてくるから体力的には楽になるんです。でも、精神的にはしんどくなる。責任感・周りからの期待からのプレッシャー感、上に行けば行くほど強くなるんだと思います。
私はナース時代に病棟ナースリーダーとして働いていた経験があります。
夜勤では特に40人ほどの命を預るので笑顔だけではやっていけません。
シェフも想像以上にいつもお客様のことを考えています。
まぁ、ちょっと厳しい顔をしているシェフが多いですが本当はとーってもやさしくて面白いシェフばかりなんです。
さてさて、次の試食はどう盛り付けをしよか・・?