シェフであり続ける、、ということ

元ナースがシドニーでシェフの勉強中。きっかけはいつもテキトー、でも中途半端は大キライ。どうせやるなら・・!

Dear シェフを目指す人たちへ・・肉の火入れ

 今日はちょっと専門的に料理の世界を掘り下げようと思う。

シェフを目指す人には勉強になると思うし、ウェイトレスやウェイターには「料理」の奥の深さを知る機会に。一般の人にはシェフがどんだけ頭使っているか、知ってもらえたらな。。と。

http://instagram.com/p/w_b_USqZdK/

Instagram

 肉の火入れってかなり難しい。ただ単に焼けばいいということはなく、そもそも料理をするに当たっていろいろな環境条件を情報として頭に入れて、そこから計算しつつ完成させていかなければならない。しかも、「ゴール地点」ってお客様のテーブルにサービスされた瞬間のことである。

今の料理長に、肉を焼くんじゃなくてイメージ的に肉に熱を与えてあげて、肉自身が火をいれる。。そう教えて頂きました。

いかに過度のプレッシャーを与えずに火入れをするか、がポイント。

加熱機器のそれぞれ

  • オーブン → 閉じ込められた空間内の空気を熱して、その熱で食材を加熱する。熱せられた空気の対流熱、オーブンの壁からの放射熱、そして鉄板からの伝導熱という3つの複合的な過熱になる。直火より間接的に火が入る他、閉じた空間なので水分が保たれる。
  • 炭火 → 熱量が高く800~1200℃、これは表面温度約600℃の電気ヒーターに比べると実に3~十数倍。そのため短時間で火入れが可能で、素材から過度の水分蒸発を防げるのでジューシーに仕上がる。更に、炭は燃えた時に水分が発生しないので表面がカラッと仕上がる。
  • スチームコンベクション → 庫内全体を均一に熱して加熱ムラをなくすことが出来る。庫内に送風機があるため空気がスピーディーに動くため素材へ熱が伝わる速度が上がり、調理時間が短縮される。「焼く」「煮る」「炊く」「炒める」「茹でる」「蒸す」など多様な加熱調理が可能で、更には調理時間、庫内温度、湿度、風量、芯温など細かく設定管理することも出来る。
  • 圧力鍋 → 水の原理(圧力が低いと沸点が下がり圧力が高いと沸点があがる)をりようしたのがこれ。加熱によって素材からの水蒸気を鍋の中に閉じ込めて2気圧くらいアップ。沸点も上がり、鍋内が通常では実現できない120℃近い温度になり短時間で硬い肉も柔らかくすることが出来る。ただし、調理後は気圧が戻るまでは蓋を開けられないので、その分を差し引いた調理時間の設定が必要。

 

鍋やフライパンの材質による特徴

  • 鉄 → 強度が高くて熱にも強いが、比較的熱伝導率が低く錆びる。
  • ステンレス → 錆びにくく丈夫だが、熱伝導率が低い。
  • 銅 → 熱伝導率が非常に高いが、高価で手入れに手間がかかる。
  • アルミニウム → 熱伝導率が高くて軽いが、酸やアルカリに弱い。
  • ホーロー → 金属にガラス質を焼き付けたもの。保温性が高く熱が均等に伝わるが、衝撃に弱い。
  • 樹脂加工 → 吸水性のない樹脂などっで金属の表面を覆うことで、素材のくっつきや焦げ付きを防ぐ。

肉の構造と加熱による状態変化

 

50℃くらい → 肉に弾力が出てくる

60℃くらい → 肉が硬くなってくる

65℃くらい → 一気に肉汁が出てくる

75℃くらい → コラーゲンがゼラチン化する

 

肉は筋繊維とよばれる細胞がたんぱく質の一つのコラーゲンの膜で束ねられている。

さらに筋繊維は、筋原繊維たんぱく質と水溶性の筋形質たんぱく質から成り、計3種のたんぱく質が存在することになる。

 

筋原繊維たんぱく質は50℃を超えると凝固と収縮を、筋形質たんぱく質は60℃から、そしてコラーゲンは65℃から凝固と収縮を始めて75℃を超えるとゼラチン化する。

加熱後、温度の上昇とともに肉は少しずつ弾力が出てくるが、60℃辺りを越えると硬くなり、65℃くらいで一気に肉汁が出やすくなる。

75℃くらいになると肉は柔らかくなる。

 

芯温のイメージとして、、

レア 55~65℃

ミディアムレア 65℃

ミディアム 65~70℃

ウェルダン 70~80℃

 

肉の熟成

肉はたんぱく質を分解させて熟成すると旨みが増し、肉質も柔らかくなる。分解時に旨みのもとであるアミノ酸に変化するためである。

 

熟成方法は、ウェットエージングドライエージング

 

  • ウェットエージング → 真空パックの状態で行う。空気がないの熟成するのに時間がかかり、旨みの生成は少なめ。
  • ドライエージング → 最近はこちらが多い。肉を通気性のある状態において熟成させる。肉の余分な水分とされる自由水(肉の中で自由に動きまわる水分)が蒸発して結合水(たんぱく質や炭水化物と結合した水分)の割合が高くなることで、味わいが濃くなりジューシー感も増す。また、時間が経つ中で酵母や菌類など微生物の働きでナッツのような熟成香も生まれるとされている。

 ちなみにドライエージングされた肉は、炭火で焼くと途中で落ちた脂によって発生する燻香が熟成香とマッチする。もしくは表面は大目の油で焦げるほどに焼き、中はレア状態に仕上げるというスタイルが流行っている。

 低温ロースト

究極の「肉汁を閉じ込めたジューシーな仕上がり」、肉の内部を出来るだけ穏やかに熟することで実現できる。

 

  • 真空調理*肉を真空パックして、一定の低温で加熱する。密封されていることから、素材の旨みや風味はそのままで調味液も均一に浸透する。
  • 低温オーブン*スチコンで蒸気を加えた状態で加熱。
  • コンフィー*一定の低温に保った油の中で加熱。旨みが溶け出しにくい油を使うことで素材そのものの風味を閉じ込められる。加熱中に素材から泡が出てきたらそれ以上温度を上げないように。

 リソレって必要なのか??

以前は肉の表面を「焼き固める」ことで中の肉汁が出ないという説は今では科学的に誤りだとされている。

でも、強火で短時間で表面の水分をとばすため表面に香ばしい焼き色がつく。これを「メイラード反応(糖とアミノ酸が相互作用して褐色物質(メラノイジン)を生み出す反応)」と言い、それと同時にさまざまな香気成分も生まれ風味がアップ。

低温でもこの反応はあるけれど、加熱によって促進されるものなので強火に意味がある。また、強火は肉の表面に香ばしい食感も生まれる。

 

ただし、この「メイラード反応」は火入れの最終段階で行っても同じ効果が得られる。

 

アロゼの効果的な方法

焼いている途中に溶け出した脂や焼き汁をかける「アロゼ」、肉の乾燥を防ぐ働きがある。と同時に、熱い油をかけることで熱を入れることが出来る。分厚い肉、凸凹のある肉や骨つき肉にピンポイントで可能。

でも、熱しすぎの劣化した油や焦げ臭い油は絶対に避けること。

 

ルポゼ

 

肉を休ませる「ルポゼ」には切った時に肉汁が流れ出ないようにするという目的の他、余熱で肉の中心までじんわりと火を通す狙いがある。

オーブンで何度も出し入れするのは、肉の表面温度を急激に上げないため。全体にゆっくり熱をまわすため、表面の温度を下げつつ余熱で中のほうまで火を入れる。

 

何度ひっくり返すのか

めざす仕上がりによって違ってくるけど、フライパンできれいな焼き目を入れたいのなら1~2回、肉の柔らかさやジューシーさを求めるなら頻繁に面を返して表面温度を一定に保つことが出来、よって均一に焼くことが出来て火の入りすぎを防ぐことが出来る。

 

 

はっきり言って、料理って掘れば奥が深く頭で理解しててもすぐに出来るもんではない。

ここ挙げた以外にも、調理するうえで計算に入れるべき情報はもっともっとある。それらに気づくには、たくさんの経験。。これに限るかな。。